最後から二番目の真実

主にミステリの感想

ミステリーの人間学 -廣野由美子

ミステリーの人間学―英国古典探偵小説を読む (岩波新書)

ミステリーの人間学―英国古典探偵小説を読む (岩波新書)


レベルの高い満足な一冊。


タイトルどおりミステリーにおいて人間がどのように描かれてきたのかをテーマにした評論。ミステリーの範囲をイギリスの、それも探偵小説勃興の頃から順に代表的な作家としたことで流れが掴みやすく非常に分かりやすい。


しかし、ここまで面白く興味深い内容となるといくつか不満点が出てくる。まず表題の「人間学」について「人間を描く」とはどういう事を指すのかをはっきりと示して欲しかった。その人の外見を描き、内面を描写することで人生や世の中をどこか透明な視線で見ていくことなのか。または一つの物語を通して作者が人間観察の達人であることを指摘したいのか。どこかこの根本部分を飛ばしているために据わりの悪い部分が見られた。


「エドウィン・ドルードの失踪」において著者は物語の結末について幾つかの説を紹介しながら自らの説を語っているのだが、その理由は正に「ミステリーの人間」についてディケンズが深い洞察力を持っており、それであればこそわたしの説に説得力が生まれるといったものである。


しかしそのためにはディケンズが深い人洞察力をもち、またその観察結果を作品の重要点にまで仕立てる興味があったのかを知りたいのだがそれは無い。ディケンズがすばらしく人間を描いてきたことは伝わるのだが、著者説に説得力を持たせるためには、その「人間そのもの」をプロットに組み込みテーマに仕立て上げおそらくはほぼ全ての登場人物を論理的に配置しなければならない理想的な手をディケンズが取りえたことを証明しなければこの説そのものの存在価値が薄いと思ってしまうのだがどうだろう。


また、第2章第3章となるにしたがって次第に「如何に人間が描かれてきたか」が「如何な人間が登場したか」になっているのも気になった。自分が知りたいのは、イギリスにおいてミステリーでどのように人間が描かれそこにどのような考えがあったのかを知りたかったのだが、残念ながらディケンズより後の章では次第に薄れ、探偵紹介といった趣が出てきていた。


合間合間にはさまれる著者の指摘には興味深い着眼点があり、探偵の歴史から語る読者へのサービスも良いのだがどうにも上記の点が気になった。是非著者にはより深い「ミステリーの人間学」第2弾を期待したい。