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最後から二番目の真実

主にミステリの感想

12人の評決 -レイモンド ポストゲート 宇野輝雄訳

十二人の評決 (1954年) (世界探偵小説全集)

十二人の評決 (1954年) (世界探偵小説全集)

第一部―陪審。ある殺人事件を裁くために選ばれた十二人の陪審員。彼らのなかには誰にも知られてはいけない秘密を持つ者もいる。そんな陪審員たちの職業や経歴、思想などが浮き彫りにされ、各々が短篇小説を読むような面白さとなっている。第二部―事件。莫大な遺産を相続した十一歳の少年と後見人の叔母。孤独な少年が唯一愛する一匹の兎をめぐり、二人は静かなる闘いを繰り広げ、やがて異様きわまる殺人事件へと…第三部―審理と評決。証言ごとに揺れ動く陪審員の心の動きをメーターの針で図示。様々な思惑を秘めた十二人の評決は。(amazonより引用)

小説としての面白さ(人間の面白さ)とミステリの面白さ(謎の面白さ)の奇跡的な融合!

こいつはすごい!12人の陪審員がけして清廉潔白な市民ではなく、一癖もふた癖もある、あるいは真っ黒な過去を持つ人たちの集まりというのが(今裁判員制度を始めた日本で読んでみて)現代的。当たり前と言えば当たり前なんだけども顔のない「一般市民」よりも遙かに親しみやすい。

彼ら12人を時にじっくりと時に足早に紹介するテンポの良さもすばらしい。12人もいるとなるとどうしてもだれるのだが、そこをうまく最後にいくにつれ短くテンポ良くまとめているのがよい。

2章で語られる事件の様子も多くの人の目を通じて多面的に語られ、しかし作者が読者に感じてもらいたいだろう「叔母の性格の悪さ」がはっきりと感じられる

しかし、第3章でこの叔母を「敬虔な真にすばらしい女性である」と言い出す陪審員がいる。普通にとらえるとどう考えても意地悪で性悪なおばさんがなぜ、素晴らしいのか、これに説得力を持たせる第1章の陪審員のバックボーンがあってこの逆転の印象。こいつはスリリングなロジックのアクロバット。最後の有罪、無罪の評決を決める過程も人間的だ。感情と論理がない交ぜになって、この2つが本来別個ではなく、一体のモノではないかと感じさせる。そして選ばれる結論の美しさ。

最後に明かされる真相も人間の業の深さ。自らが悪をなしたことを知らぬ悪の邪悪さが見えてくる。自覚的であるというのは案外素晴らしいことなのだと気付かせてくれる。


人間的でミステリ的にも素晴らしい一作