最後から二番目の真実

主にミステリの感想

吸血鬼と精神分析 -笠井潔

「牛首島」の奇怪な事件に巻き込まれたナディアはパリに戻って以来、体調がすぐれない。ナディアの父・モガール警視はルーマニアの亡命者が殺された事件と、週末ごとに女性が血を抜かれて殺されてしまう「吸血鬼」事件の捜査でナディアと会話する時間もない。 精神医のところを訪れたナディアは、そこでタチアナという少女と知り合う。彼女は、自分が二重人格者ではないかと恐れていた。そして、タチアナのある依頼をきっかけに、ナディアは彼女が殺されたルーマニアの亡命者と接点があったことを知る。そして、連続「吸血鬼」事件の四人目の犠牲者はタチアナだった……。 ナディアとともに、矢吹駆が事件の謎を追う。(amazonより引用)

矢吹駆シリーズを追い続けている熱心なファンにとっては実に面白い。ほぼ10年ぶりのシリーズ6作目。このあとも「煉獄の時」「夜と霧の誘拐」、近々「魔の山の殺人」も連載されるということでシリーズそのものは終わらせる気はあると思う。

今回は「精神分析」と「吸血鬼」がテーマ。本格ミステリに頻出するガジェットではないので個人的に興味は引きつけられない。やっぱり「嵐の孤島」や「見立て殺人」、「ミッシングリンク」なんかの方が好きなんだよね。

それでも精神的に立ち直りきれないナディアは可愛い。自分に気があるのを利用して格安オールペンさせるなんて実にたちが悪くて可愛い。(ピンク色のメアリは欲しいなぁ)

真面目な事を書くと、この作品の本質的なテーマは「内と外」、あるいは二項対立なのではないか。東側と西側、「体から出た血」と「血がなくなった体」、男と女、実体と鏡像、そういったモノが混ざっていく「精神分析」。だからこそ頻繁に「オイディプス症候群」が振り返られている。(オイディプスもまた内と外の話だった)

犯人も被害者も何らかの形で一方から一方へ出ようとしていた。そういった視点でこの作品を読むと、最後鏡を見れるようになったナディアは「自身と鏡像を俯瞰できる第3視点」を得られたということなのかな?

二度三度読みたいね。